【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 私の中からあいつを追い出すんだと決意する夢。

 そして、それをあいつに宣言すると……。
 あいつは――岸は、悲しそうな笑みを浮かべるんだ。

 その笑みは見てるこっちまで苦しくなるような寂しさを秘めていて……。


 心臓をわし掴まれるような苦しさを私に与える。

 夢から引きずってきたその苦しみに、耐えるように一度目を閉じると一筋涙が零れた。


 深く息を吸って思う。

 岸が、あんな顔するわけない。

 私を丸ごと奪っていくような獣の目をしているか、周囲を馬鹿にしたようなニヤついた笑みを浮かべているか。
 大体がそんな顔だ。


 あんな……。

 あんな、捨てられて、でもそれを受け入れ慣れているような悲しい笑みなんて見たことない。


 だからあれはただの夢。

 きっと、田神さんに会わないでくれと懇願されたから。
 その申し訳なさから、夢に変な影響を与えただけに決まってる。


 そうだよ。

 見たこともないものを夢で見るわけないじゃない。


 そう決めつけて、私はベッドから降りた。

 みんなとのデートから一週間が経ち、今日は鬼塚先輩とのデートだ。

 でもみんなとのデートのときと違って憂鬱な気分はない。

 だって、デートって言うより護衛任務のシュミレーションって感じなんだもん。


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