【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 そのまま笑顔の工藤さんに付いて行くと、カフェというよりアパレルショップが立ち並ぶ区画に来た。


 おかしいな、と思ったけれどよく考えたら工藤さんはカフェに行くとは言っていなかった。
 丁度良い場所があると言っただけだ。


 まあ、休めるなら良いんだけど。


 そう思ってさらにそのまま付いて行ったんだけど……。

「さ、こっちよ」
 と言って開いたドアはどう見てもスタッフルームへ続くもの。


「……は?」

 流石におかしいんじゃ……。

 そう不審に思って彼女をよく見ると、ドアを開けている方の手首に見覚えのある赤い痕が見えた。
 腕を上げたことで袖で隠れていた部分が少し見えたらしい。

 そして、その様子がある記憶と重なる。


「っ⁉ まさか――⁉」

 そう声を上げたときには私は工藤さんに腕を掴まれていた。


 逃げなきゃ、と思うより先に強い力で引かれる。

 その勢いのまま、私はドアの向こう側へと放り投げられた。


 手首の赤い痕はキスマークのように見えた。

 普通だったら虫刺され? とでも思うかもしれない。
 でも、私は少し前に友達の有香に同じような痕があったことを思い出す。

 吸血鬼の血を少量入れられ、操り人形になってしまった有香。

 その、入れられた痕がキスマークのように見えたんだ。


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