【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 思い返せば、強く抱きしめられたときに力強さをあまり感じなかった。


 どれくらいの衰弱具合なのか分からないけれど、明らかに弱っている今の岸を殴ろうとは流石に思えない。

 仕方なく、構えを解く。


「どうしてなんだろうなぁ? 血液パックの血を飲んでも、直接吸血してみても、少ししか飲めなくなってる。それなのに渇きはなくならねぇ……思い当たることはあるけどよぉ……」

 そう言って、胡乱(うろん)な目で私を見た。

「な、何よ?」
「まさかなぁ、とは思ったんだが……」
「だから何よ⁉」

 もったいぶったような岸につい声を荒げてしまう。

「……多分、お前の血を飲めば渇きはなくなる」

 珍しく真剣な目で告げられ、更に戸惑った。
 でも。

「そんなこと言われても、飲ませてあげるわけないでしょ?」

 単純に血を吸われたいとは思わないし、ましてや岸のことだ。
 血を吸うだけで終わるとは思えなかった。

「はは……まぁ、そうだよなぁ」

 ハッキリと拒否したけれど、岸の力のない笑い声に胸がざわつく。

 想定外だ。
 まさか岸が、こんな風に弱っているなんて。


 こんなんじゃ、殴りたくても殴れない……。


 私は本当に、弱っている人に弱いんだと思う。

 殴りたいと思っていた相手。
 嫌いだった――ううん、今も嫌いなはずの相手。

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