【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 でも、田神先生はそうして逃げようとするあたしを許してはくれなかった。

「……聖良。岸に血を吸われたんだな……?」

 冷静に、探るような口調。


 今は緩めた首元も直していて咬み痕は見えないけれど、吸血鬼である田神先生はあたしの血が流れたことに気づいてるんだろう。

 以前吸われた時も吸血鬼ならわかるという話を聞いた。


 誤魔化しがきかないのは分かっていたから、コクリと頷くことで答える。

「抵抗出来なかったのか?」

 心配そうな声にどう答えたものかと迷っていると、彼の声が急に固くなった。


「……それとも、抵抗しなかったのか……?」

「っ!」

 思わず息を呑み、表情を固くしてしまう。

 それが答えになってしまった。


「聖良……お前……」

 その声に非難するような色を感じ取ったのはあたしの罪悪感からか。

 何にせよ、気づかれてしまったかも知れない。


 そんな思いからさらに言葉を紡げなくなる。

「聖良、俺を見ろっ」

 両肩を掴まれ、強めに言われる。

 必死な様子の目と視線が合って……。


「っ田神先生……」

「……先生、なんだな……」

「っ!」

 田神先生の顔が哀しみと苛立ちを合わせたような表情に歪む。

 あたしは田神さんではなく田神先生と呼んだ。

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