【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 あれほどまでに強く求められたことに。


 惹かれるとか、そんな生易しいものじゃない。

 そんなものを通り越して、持っていかれてしまった。


 あたしが無意識に強く欲していたものを……それ以上の強さで与えてくれた岸に、心を丸ごと持っていかれてしまったみたいだ。


 その証拠に、駆け付けた田神先生を見たとき気づいてしまった。

 足りない。

 そう思ってしまった。


 田神先生もあたしを求めてくれている。

 でも、その強さは岸には遠く及ばなくて……。

 田神先生じゃ、足りないと思ってしまったんだ。


「っごめっ、ごめんなさい……」

 だからあたしは涙を流して謝ることしか出来なかった。


 言うことを聞かなくてごめんなさい。

 気持ちに応えられなくてごめんなさい。

 あなたを選べなくてごめんなさい。


 ……あたしは、もう岸以外を選べない。


 だから……。


「ほんとに……ごめんなさいっ……」

 謝るしかなかった……。

 泣き続けるあたしにそれ以上どうすることも出来なかったのか、田神先生は「寮まで送ろう」と感情のこもらない声で言って車で送ってくれた。

 流石に寮までには泣き止んでいたけれど、申し訳ない気持ちしか湧いてこない状態じゃあ何かを話すことも出来なくて……。


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