【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
「吸血鬼は本能的に唯一を探し求めてるの。見つからなければ特に気にも留めないけれど、もし見つけて出会ってしまったら……」


「……出会ってしまったら?」

 慎重に言葉を紡ぐ嘉輪をうながす。

 嘉輪はためらいがちに一度目を伏せ、真っ直ぐに私を見て続きを言った。


「出会ってしまったら、その相手だけを強く求めるわ。その身も心も……気が狂うほどに」

「狂うって……」

 極端すぎる表現だと思ったけれど、嘉輪はどこまでも真剣だった。


「私の母と祖母がその“唯一”なの。……元人間の母は父の“唯一”で、両想いで結婚出来たから最高の夫婦になっていると思うわ」

 両親のことを語る嘉輪は優し気で、でもちょっとだけうんざりしている様。

 その表情が強張ると、今度は彼女の祖母の話になった。


「でも、祖母は……。とある吸血鬼の“唯一”だったけれど、人間である祖母は別の普通の人間を選んで結婚したわ。……人間にとっては、“唯一”なんて関係ないしよく分からないものだから」

「……」

 そういうものなのかな?
 少なくとも特別に思われてるってことは分かると思うけど……。


 口にはしなかったけれどそんな風に思う。

 でも、続く嘉輪の言葉で私と吸血鬼の“唯一”に対する認識がかなり違っていたことを知る。


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