【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 忍野君が岸のことをどう思っているのかは分からないけれど、彼がそこまで言うことなら聞いておきたい。

「……分かった。聞かせて」

 覚悟を決めて話をうながすと、忍野君はゆっくり口を開いた。


「……俺さ、あの岸って人のことあんまり良くは思ってないんだ。蹴られたし」

「……」

 まあ、そりゃそうだよね。


「でも、とことん嫌うほど知ってるわけでもないんだよな」

 だから調べてみたんだと話す忍野君。

「調べるって……」

 どうやって? と思ったら、普通に岸の同級生とかから話を聞いただけらしい。


「あんまりいい噂は聞かなかったけどさ、結局噂でしかなくて……もっと詳しい人がいないか聞いて回ったんだ。そしたら……」

「そしたら?」

「中等部の頃仲が良かったっていう三年の人に話を聞けたんだ」

「!」

 それを聞いて一番に思ったのは驚き。


 ……仲の良い友達、いたんだ。


 失礼かもしれないけれど、津島先輩や鬼塚先輩、他の三年の話を聞く限りでは岸は一人でいることが多いようだったから……。

「なんか、岸って人はシングルマザーだったらしい。母親が人間で、父親が吸血鬼の」

 そうして聞かされた話は何とも重苦しいものだった。


 岸が物心つく頃には吸血鬼である父親はいなくて、母親も彼を持て余していたんだそうだ。

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