【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 それでも小さい頃はそれなりに母子関係をきずけていたみたいだったけれど、大きくなって来て岸の吸血鬼としての(さが)が出てくると本格的に持て余してきたようだった、と。


 でも城山学園の中等部に入って寮生活をして、少し距離を置けたから母親も落ち着くだろうと岸は考えていたらしい。

 実際、長期休暇で家に帰ったときは普通だったとその友達に話していたそうだ。


 ……なのに、岸が高等部に上がって最初の長期休暇に入る少し前。
 その母親から電話があったそうだ。

『あなたはもう、一人でも大丈夫よね?』

 と、一方的な別れの電話。

 すぐに家に帰ってみたけれど、家は引き払われた後で誰もいなくて……。

 彼の母親は、そのまま行方をくらませてしまったらしい。


 当然荒れた岸は、何もかもがどうでもよくなったと(こぼ)し執着するものもなく退廃的になっていったんだそうだ。


「……」

 一通り岸の過去を聞いて、沈黙が落ちる。

 なんて言えば良いのか分からない。

 でも、一つ分かった気がする。


 私の血を飲む前に見せたあの表情。

 諦め、それを受け入れ慣れた悲しい笑み。


 あれは、そんな生い立ちから来てるものだったんだって。


「その話聞いたらさ、同情ってわけじゃないけど……なんか、ああなるのも仕方ないのかなって」

< 513 / 741 >

この作品をシェア

pagetop