【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 私のせい?

 何かしただろうか?


「んだと?」

 喧嘩腰な岸に、男はあくまで苦笑ぎみに話す。


「“純血の姫”を本物の“花嫁”の方に向かわせただろ? 下手をしたらまた取り返されてしまうからな……その子は保険だよ」

「保険?」

 どういう意味だろう?

「……おい、それはどーゆー意味だぁ?」

 岸の声がことさら低くなる。

 怒りが滲み出ている様子に、私の戸惑いは強まった。


「“純血の姫”はあそこで足止めする予定だったってのに……その予定が崩れたから、予定を変更せざるを得なくなった」

「どういう意味だって聞いてんだよ⁉」

「おー怖い怖い。……そのまんまの意味だよ、“花嫁”が手に入らなかったときの代わりさ」

「っ⁉」

 それって、つまり……。


「聖良を俺から奪おうってことかぁ?」

 ふざけんなよ、と悪態をつく岸はもう怒りを抑えようとはしていなかった。

 助手席に座る男を今にも射殺しそうな目で睨む。

 私も、そんなのはごめんだと睨みつけた。


「別に奪うつもりはないさ。“唯一”を奪おうとするなんて普通の吸血鬼なら考えない」

「……」

 普通じゃなければ考えるって風にも聞こえる。

 だからそのまま警戒していると……。


「ただちょっと、貸してもらうだけさ」

「は?」

 貸す?
 って、私を?

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