【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 そして、二人は私達と相対して構える。


「……岸、これってもしかしなくても思った以上にマズイ?」

「はは……そうだな」

 答えた岸の顔には笑みが浮かんでいるけれど、その笑みに余裕は欠片もない。


「お前を離さずに逃げ回るしかねぇだろ」

 そう言って、岸は私をお姫様抱っこした。

「しっかり掴まってろ。離すなよ?」
「うんっ!」

 逃げの一手となると確実にこっちが不利だろう。

 でもそれしかない。


 なら、逃げながら隙を突くしか方法はないってことだ。

 岸が二人を避けるように横に移動した途端、彼らも動きだす。


 先に近づいてきたのはシェリーの方。

 彼女は主に私を狙って来ていた。

「人一人抱えながら逃げるなんて無謀よ! さっさと離して渡しなさい!」

 岸に対してそう叫びながら、爪を立てて私を掴み取ろうとする。


「離すわけねぇだろ!」

 シェリーの手から逃れるため跳んで距離を取ると、次には男が近づく。


「俺としては“花嫁”を傷つけたくはないんだがなぁ」

 言いながら男の方は岸に向かって拳を振るってくる。

 言葉の通り私を傷つける気は無いのか、ナイフを持つ手は使ってこない。


「ちっ!」

 それでもやっぱり私を抱えたままでは岸が不利。

 せめて隙を探るのは私が、と思うのに、そう簡単にはいかない。
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