【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 わき腹にナイフを刺された岸の姿だった。

「っ――⁉」

 息を呑み目を見開く。


 信じたくない光景だけれど、大きく開いた目はその光景を映すのをやめてくれない。

 嫌でも焼き付いた。

「ゃ……いやぁ!」

 なりふり構わず岸のもとへ行きたかったけれど、吸血鬼であるシェリーの力には到底敵わず髪が数本抜ける音がしただけだった。


「うるさいわよ! 岸は吸血鬼なんだから、あれくらいの傷少しすればふさがるわ」

 シェリーはイラついたように叫びさらに私の頭を押さえつける。

 痛みと悔しさと悲しみで涙がにじんだ。


 愛良を助けるためにここに来たことは後悔しない。

 後悔するくらいならもっと前にしている。


 でも考えずにはいられない。

 もっと他に方法があったんじゃないかって。


 この部屋につく前に……男一人だけの時に逃げ出しておけば……。

 悠長にシェリーと会話なんてせずにさっさと部屋を出ようとしておけば……。


 そうすれば、岸が刺されるなんてことにはならなかったんじゃないかって。

 悔しさに唇を噛んだ。


「さ、こいつが動けるようになる前に“花嫁”を移動させとくか」

 男がそう言って岸を放置し私たちの方へとゆっくり歩いてきた。


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