【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 彼は、スッとその目から感情をなくし最後に告げた。


「まあそういうことだ。俺も捕まりたくはないんでね、そろそろ行かせてもらう」

 言うが早いか、次の瞬間には男の姿は掻き消えていた。

 わずかな残像と障子戸が開けられたことでこの部屋からいなくなったというのが分かるだけ。


 残されたのは取り乱すシェリーと、そんな彼女に捕まっている私。

 そして、やっと傷が塞がってきたのかゆっくり立ち上がる岸だった。


「冗談じゃない、捕まってたまるものですか。……でも、“花嫁”がいないと彼は……」

 ブツブツと呟きながら考え込むシェリー。

 今の彼女なら、落ち着かせれば離してくれるかもしれない。

 そう思った私は出来る限り柔らかい声で話しかける。


「シェリー……離してちょうだい。今は、逃げることを考えた方がいいんじゃないの?」

 捕まったらそれこそ“唯一”と離れ離れにされてしまうんじゃないかと、説得したつもりだった。

 でも……。


「……そうね。逃げることを最優先にしなくちゃ」

 そう言って私を見た彼女の目は、とても凶暴な光を宿していた。


 本能的にマズイと思ったけれど、シェリーの手から逃れるすべがない。

「っ離して!」

「私の力じゃあ逃げ切れない。でも、あなたがいたわ」

 ゾワリと、本能的な恐怖が体を震わせる。

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