【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 頭の中では逃げろと警報が鳴っているのに、怖くて身がすくむ。


「あ……な、にを……?」

「劣化版とはいえあなたは“花嫁”。その血は吸血鬼に力を与えるのよね?」

 とても、とても美しく笑いながら、シェリーは私の首にかかる髪を払った。


「――っ!」

 それだけで嫌でもわかる。

 血を吸われるって。


「っく! シェリー、てめぇ!」

 まだ完全に傷は塞がっていないようだったけれど、岸が駆けつけてシェリーを私から引き離そうとする。

「邪魔よ!」

 でも本調子じゃない岸は傷口にもろに蹴りを食らってしまった。


「ぅぐあっ!」

「岸!」

 叫ぶけど、届かない。
 そばに行きたいのに、行くことが出来ない。

 悔しい、悲しい。

「シェリー! お願いだからやめて!」

 願うけれど、聞き入れられることはなかった。


 私に視線を戻したシェリーは、そのまま私の首に咬みついてしまう。

「ぅああ!」

 痛みに、声も表情も歪む。


 すぐに痛みは熱に変わったけれど、同性だと快感にはならないのかただ高熱を出したように全身が熱くなるだけだった。

「っ、や、め……」

 頭の中も溶けてしまいそうな熱さに耐えながらうったえる。
 でも、彼女が聞くわけがなくて……。


 吸われる感覚。
 ゴクリと私の血を飲み干すシェリーの喉の音。
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