【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
「そんな、気にしないで? あのとき嘉輪がいなかったら私か永人のどちらかが死んでしまってたかもしれないんでしょう?」


 あのとき……シェリーに血を大量に吸われた私は確実に死に向かっていた。

 吸血鬼の血を入れて私自身が吸血鬼になる以外に、その死を回避する方法はなかったんだ。

 そして本当なら、私を“唯一”としている永人が血を入れるのが一番問題がなかった。

 でも、直前に深手を負って血を流した彼が私に血を入れると、今度は永人の方が血が足りなくて死んでしまうというような状況。


 一刻どころか数分が命取りになるような状況だったんだから、あのときは嘉輪以外に私を助けられる人はいなかった。


 どう考えても謝られることじゃない。

「私は本当に感謝してるんだよ? 吸血鬼になって血を飲まなきゃならなくなったし、何だかすごく強くなっちゃったけど……でもそれ以外は普通に人間として生活出来るし」

 そこで私はちょっとだけ永人の方を見て「それに」と続ける。


「永人にあんな顔、させたくなかったし……」

 嫌だ、行くなと悲痛な表情の永人。
 あんな顔をしてほしくなかった。

 私が彼を選んだことを純粋に喜んで、笑ってほしかった。


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