【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 それは、どういったものなんだ?

 初めて聞く内容に俺は顔を上げて冷静な男を見る。

 すると目が合い、フッと軽侮(けいぶ)するように笑われた。

「吸血鬼は愛に生きる生き物だ。それを忘れ、欲のためだけに行動する月原家は吸血鬼とは名ばかりの恥さらしだろう?」

 俺を見て同意を求めるような言葉。

 だが、その目は『お前もそうなんじゃないのか?』と聞いている様に思う。


「っ!」

 なにも、言えなかった。


 無言でうつむいてしまった俺を置いて、上層部の者たちはどうやって聖良のお披露目をするかなどを話し合っている。

 その話し合いを聞き流しながら、俺は荒れる感情を押し殺し考えていた。


 吸血鬼は愛に生きる生き物?
 契約もあり、“唯一”同士の二人を引き裂くのはまともではない?

 だが、俺は聖良が好きなだけで――?

 そう考えておかしいことに気づく。

 聖良を好きだと、そう思うのに心に温かいものが宿らない。
 むしろ、好きという言葉を素通りしてただの独占欲が沸き上がった。


 聖良が欲しい。
 俺に力を与えてくれる“花嫁”が欲しい。
 そのためには岸が邪魔で、彼女から引き離したい。
 聖良が泣こうがわめこうが知ったことか。

 そんな昏い感情に、気づいてしまった。


 そんな……俺は、いつの間に聖良への愛情を無くしてしまっていたんだ?

 俺は、吸血鬼の恥さらしと言われるような者たちと同じになってしまったのか?


 あまりのショックに、会議が終わるまで俺は顔を上げることが出来なかった……。
< 635 / 741 >

この作品をシェア

pagetop