【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 津島先輩の笑いをこらえたような言葉に、あのときいなかった正輝君が聞く。


「なんか壁まで飛んだって聞きましたけど」

 瑠希ちゃんの言葉に愛良が「本当だよ」と答えると、隣の零士がどことなく遠い目をして話し出す。

「……あれは流石に本気で引いたぞ」


 あんたはあのときも愛良しか見てなかったでしょうが⁉


 突っ込んで怒鳴りつけたかったけれど、この間零士とケンカしたら永人に嫉妬するとか言われてしまったから耐える。

 また「教え込まねぇとなあ?」とか言われたらたまらない。


「まあ、何にせよ気にしないことだ。ここまで来たら誰が悪いとかいう問題じゃないだろ」

 石井君も苦笑気味にそう言って忍野君の肩を叩く。


 そんな風に緊張がほぐれてきたところに、今まで黙っていた俊君が口を開いた。

「そうですよ、忍野先輩のせいじゃないです。……あえて言うとしたら、岸のせいですよね?」

 その瞬間、空気が一気にピリッとなる。


 笑みを浮かべている俊君だけれど、その目は笑っていない。

「……何が言いてぇ?」

 剣呑(けんのん)な雰囲気で永人が聞き返すと、俊君はその張り付けた笑みすら決して睨みつけた。

「言葉の通りだよ。守ると言ったくせに、聖良先輩を死なせかけた。波多先輩がいなかったら、本当に死んでたんだぞ⁉」

「っ!」

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