【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 光を反射しないその月が、私の上昇の月ってことか。


「……なんか、映えないね」

 ポツリと一人ごちる。

 月の力でパワーアップした吸血鬼と言うと、やっぱり嘉輪の姿が思い浮かぶ。

 煌々と明るい満月の光の下、とても美しく強くなった嘉輪。

 あんな綺麗でカッコイイ状態の嘉輪が満月を背にしたら、同性でも絶対に惚れると思う。


 そう思うからこそ、全く月が見えない今日が私の上昇の月というのは何だか寂しい気がした。

「まあでも、自分で決められるわけじゃないみたいだし、仕方ないよね?」

 呟きながらまた窓に手を掛ける。

 このままだと夜風に当てられて本当に湯冷めしてしまう。

 そう思って窓を閉めようとすると。


「――聖良」

「え?」

 突然名を呼ばれてキョロキョロと辺りを見渡した。


 今、外の方から聞こえたよね?

 でも待って、ここ八階だよね?


「こっちだ」

 下ばかり探していた私に、もう少し上の方――この部屋から一番近い高木のてっぺんあたりからまた声が掛けられた。

 永人の声だ。

 そう確信して声に目を向けた途端、言葉を失う。


 そこには普段より妖艶さが増したような彼が、蠱惑的な笑みを浮かべて木の枝の上に立っていたから。

 ドクン、と鼓動がひと際大きく鳴り、目を見開く。

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