【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 ここ以外の部屋の明かりでぼんやり浮かび上がった姿に、魅せられる。

 まるで永人自身が月だとでもいうように、僅かな光源を受けて光って見えた。

 そんな彼が、眩しそうに目を細めて「やっぱりな」と呟く。


「お前の上昇の月も今夜だったか。……綺麗だな」

「っ! 永人も、なんだね……」

 そういえばこの間言っていたっけ。

 永人が力を増すのは新月の日だって。


 今の、いつも以上に魅力的な永人の姿がそれを物語っていた。


 永人には、私がどんな風に見えているんだろう?

 綺麗だと言ってくれたけれど……。


「ああ、俺もだ。……人間から吸血鬼になった場合は、血を入れられた日の月になりやすいって聞いたからな」

「そうなんだ……」

 言葉を交わしながらもつい見惚れてしまう。


 少し赤っぽい焦げ茶の髪が夜風に揺れる。

 少し強い風に彼の切れ長な目が細められた。

 でも、その中にある黒曜石のような黒い瞳はずっと私だけを見つめている。


 そばに行きたい。
 彼に触れたい。

 そんな欲求が自然と沸き上がった。


 それでも言葉には出していなかったのに、表情にでも出ていたんだろうか?

 永人は片手を上げて私を誘う。


「来いよ、聖良」

「え……」

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