【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 キスのし過ぎで唇が痛くなってきたころ、その唇が離れてギュウッと抱き締められる。

 その力強さにどこかいつもと違う雰囲気を感じ取って、私は呟くように聞いた。


「……ねぇ、今日はどうしてこっちまで来たの? 私の上昇の月を確認するためだけ?」

 いつもはここまでしない。

 SNSなどでメッセージのやり取りをすることはあっても、こんな遅い時間に会おうなんてしたことはなかった。

 しかも寮内ではなくわざわざ外に出るなんて……。


 でも、永人はすぐには答えてくれなかった。

「とりあえずいったん降りるか。少し散歩でもしようぜ? 大きいけど、下にお前が羽織れるもの持ってきておいたからよぉ……」

「……うん」

 話しづらいことなんだろうか?

 とりあえず私は永人の言うとおりに木から下りることにした。

 彼の誘導のもと、枝を伝って降りていく。


 地面に降りると、永人のものらしいジャケットが木の根元に置かれていた。

 それを羽織らされると、永人の手が私の手を取る。

 指が絡み合い、恋人つなぎで歩き出す。



 静かな、月のない夜。

 私が吸血鬼だからだろうか。

 真っ暗なはずなのに、多少は周囲の様子が見える。

 永人も同じなのか、足取りに迷いはない。

 そうしてしばらくは無言で歩みを進める。


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