【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 靴ちゃんと履いて来て良かった。

 スリッパのままだと歩きづらかっただろうから。


 でも、本当にどこへ行くんだろう?

 向かっているのは学校がある方とは真逆だし。


 このお城みたいな寮は敷地内の奥の方にあるから、ここより先は完全に山の中だったはず。

 特に何かがあったとは記憶してないんだけれど……。


 そう思いつつも手を引かれるままついて行った。


 そして、暗闇の中たどり着いたのは――。

「……温泉?」

 木々が開けた場所にあったのは、一応人の手が入った温泉施設だった。


 掘っ立て小屋みたいな脱衣所らしき建物があって、後は少し大きめの岩風呂が一つ。

 つい立ても照明もないけれど、確かにそれは温泉だ。


「……鬼塚が教えてくれたんだよ。あんまり知られてねぇけどここにも温泉があるって」

「へぇ……」

 鬼塚先輩のこと嫌そうにしていたけれど、何だかんだやっぱり色々話したりしてるんだなぁ。

 なんて思いながら相槌を打つ。


「見ての通り丸見えだし混浴だし? たまに猿も入りに来てるとか言ってたがよぉ……今みたいなときはこっちに入りに来ても良いんじゃねぇか?」

 と、永人は自分の胸元辺りをトントンと指先で叩く。

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