【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 そのジェスチャーが、私についているキスマークのことを指していると気付いてカァッと顔が熱くなった。

「で、でも、こんなつい立てもないところに入るなんて……」

 恥ずかしさを誤魔化すように文句を言うと、永人は「大丈夫だって」と口端を上げる。


「見ての通り照明もないし、ほとんどは昼間しか来ねぇよ。夜は吸血鬼の生徒なら来れるだろうが……寮の温泉があるのに好き好んでここまで来るやつはいねぇな」

「そうなの?」

「ああ……」

 聞き返した私に静かにうなずく永人はやっぱりちょっとおかしい。


「……永人、本当にどうしたの?」

 いつもと様子が違う彼が心配になって、下から覗き込むように見上げる。

 そして空いている方の手で永人の頬を包んだ。


 すると彼はその手に自分の手を重ねる。

 頬も手も冷たい。

 私の手の方がまだ温かい。

 だから、そのまま冷たい頬と手を温めた。


 私のぬくもりを感じ取りながら一度目を閉じた永人は、まるで懺悔するように語りだす。


「ひと月前のあの日……お前が吸血鬼になってしまったあのとき……守ってやれなくてすまなかった……」

「え……?」

 真面目な謝罪に私は密かに衝撃を受けるくらい驚いた。


 永人の謝罪といえば、ニヤニヤ笑いながら「悪かったなぁ?」なんて挑発でもするようなものばかり。

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