【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 こんな殊勝な態度での謝罪なんて初めて見たかもしれない。


「あの日は俺の上昇の月……新月だった。月の力を使えれば、最悪お前を連れて逃げられると思った」

 ゆっくり開いた目には後悔の色。

 悔しさと悲しみが入り混じり、私を見下ろす。


「甘かった、まさか陽が落ちる前にあんなことになるなんてな……」

「あれは! 私の判断が甘かったんだよ。永人が気にする必要はないよ?」

 永人は私のわがままを聞いてくれただけ。

 こんなふうに気にして欲しくない。


 でも、私が何を言おうと永人の後悔は変わらなかった。


「だとしても、俺が甘く見てたってことは変わらねぇよ。わがままだろうが何だろうが、知るかっつって逃げれば良かったんだ」

「でも、あの状況であの人達が逃がしてくれるとも思えなかったし……」

「それでも、だよ」

 痛みを耐えるように、眉間に深いしわが出来る。


 永人は私の手を離し、ギュウッと抱き締めた。

「お前を失うなんて……耐えられねぇよ……」

「永人……」

「あんな思い、二度としてたまるかっ!」

 痛いくらい抱き締められる。


 痛くて苦しいけれど、それが永人の苦しみだと思うと止めてと言えなかった。

 その苦しみも、受け入れたかった。


 失うなんて耐えられない。

 それは、私も同じだから。


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