【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 それか一応話だけでも聞いてみるべきか……。

 どうするべきか悩んでいると、男性がこちらに気付いた。


「初めまして。香月 愛良さんだね? 待っていたよ」

 男性の目的は愛良の様だ。
 ますますさっきの男と重なってしまう。

 でも、男らしく紳士的な笑みを向けられてついつい警戒心が緩む。

 とりあえず話くらいは聞いてもいいかもしれないと思って数歩近付いた――が、そこで足を止める。


 何故なら、男性の更に向こうからさっきの男が近付いて来るのが見えたから。


 男は男性の隣に立つと、私達――正確には愛良を見て「こっちから来てたのか」と呟いていた。

 男性は男を見ても“誰だこいつ”みたいな顔はしなかった。
 むしろ困ったように息を吐く。

 その様子は明らかに二人は知り合いだと物語っていた。


 どうしよう。
 やっぱり交番に行くべき?


 そう思って愛良の手を握る。
 すると愛良も同じように思っていたのか、手を握り返された。

 じゃあまた走るよ?
 と視線を向けると、コクンと頷く愛良。

 そして二人で踵を返したとき、男が声を上げた。


「逃げても無駄だ」


 でもそんな声は無視する。聞く必要もない。

 なのに私達は走り出すことが出来なかった。


 いつの間にかすぐ目の前に男がいたから。


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