【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 疲れるだろうし、無理にいなくてもいいんじゃない? と言ってみたけど、愛良は頑なに「お姉ちゃんの近くにいる」と言い張った。

 心強いけれど、心配にもなるから「無理だけはしないでね」と伝えておく。

 はじめの挨拶は赤井家の人達だった。

 主に愛良に対しては零士を選んでくれてありがとうという感じで、私に対しては親戚となるのだからよろしく、みたいに含みを持たせたような言い方をされる。

 なんて言うか……古狸ってこういう感じの人のことを言うのかな?って思った。


 そうして私を始祖の再来ともてはやす何人かの挨拶を終えて、まだまだ先は長そうだとうんざりしてきたころ。

 薄茶の長い髪を後ろに一つにまとめた和装の男性が挨拶に来た。

 他の当主の人達と違って若い。
 二十代くらいなんじゃないかな?

 優し気な笑みを浮かべて近付いてきたその人を見て、隣の愛良がヒュッと息を呑むのが分かった。


「愛良?……もしかしてこの人が?」

 小声で聞くと、小さな頷きが返ってくる。


 そうか、この人が月原家の当主なんだ……。


「初めまして、聖良様。私は月原伊織(いおり)と申します。……愛良さんはお久しぶりですね」

 表情は優し気だけれど、その目に得体の知れない(くら)い色が見えて思わず愛良をかばう様に少し前に出た。

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