【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 でもそれは零士も同じだったようで、二人で愛良の前に立つような感じになってしまう。


「おやおや、まるでナイトですね」

 クスクスと笑う伊織は穏やかそうに見える。

「そう警戒しないでいただけませんか? “花嫁”はすでに契約をすませた。ですからもう手を出すようなことはないですよ?」

 彼は柔らかな笑顔を浮かべてそう言うけれど……。

 この人はそう言って他の吸血鬼やハンター協会の人達の非難と追及を逃れているんだと聞いた。

 やっぱり油断は出来ない。


「……あなたも久しぶりですね、岸」

 伊織の視線が私達から永人へと移る。

「“唯一”と共にあることが出来て良かったね。羨ましいよ」

 その眼差しと言葉は祝福している様にも見えて、どこか嫉妬じみたものも感じる。


 ……そういえば、彼とシェリーも“唯一”同士なんだっけ?


 ふと、そのことを思い出した。


「……こいつには手ぇ出させねぇぞ?」

 低く、唸るような永人の言葉も伊織は微笑みで受け流す。

「君は相変わらずだね。……まあ、よしなに頼むよ」

 そう言って伊織は去っていった。

 一見穏やかに挨拶は終わった様にも見えるけれど、何故か胸はザワつく。


 警戒は続けるべきだと再確認した気分だった。



 その後も挨拶は続き、もはや笑顔が引き攣ってくる。

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