【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 聞き覚えのある声が、暗くなりかけた空に響く。


 その声の主が突進してきたようだと理解すると、声とはまた別の人物の腕が私を引き寄せて伊織たちから離す。


 ギュッと抱きしめられて、覚えのある腕に安堵した。

「な、がと……」

 気を失っていたはずなのに、来てくれたんだ……。


 さっき言っていた中和剤を飲んだのかもしれない。
 でも確実に中和できるわけじゃないみたいだったのに……。

「聖良……っく!」

 やっぱり薬の効果はまだ残っているのか、ここまで来るのが限界だったらしい。

 私を抱きしめたまま、地面に倒れてしまった。


「岸、無理はするな。とにかくそのまま聖良さんを離さない様に守れ!」

 私達と伊織達の間にさっき突進してきた田神先生が立ちふさがる。


 そういえば、田神先生は会場の外の警備を担当すると言っていたっけ。

 そのため薬を吸わずに済んだのかも知れない。


 でも、伊織達がそちらの警備を放置していたとも思えなかった。

 それでも来てくれたんだ。

 宣言した通り、ちゃんと助けに来てくれたことに胸が熱くなる。


「お前は……シェリーはどうした⁉ そちらの対応は彼女に任せたはずだ!」

 田神先生を見てわずかに焦りを見せる伊織。

 どうやら今回シェリーは会場にいない吸血鬼達の対応をしていたらしい。


< 723 / 741 >

この作品をシェア

pagetop