【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 会場は今どうなっているの?
 愛良は大丈夫なの?


 色々なことが分からない状況を不安に思っていると、ギュッとまた強く抱き締められた。

「聖良……間にあって良かった……」

 苦し気に言葉を紡ぐ様は、まだ薬が抜けていないのがよく分かる。

 すぐに気を失ってしまうほどの濃い薬を吸わされたんだ。
 むしろ今ここに来れている時点で奇跡だろう。


「なが、と……きて、くれて……あり、がと……」

 何とかお礼を言うと、「当たり前だろうが」と絞り出すような声が聞こえる。

「お前を失いそうになるなんて……二度とごめんだって、言ったはずだぜ?」

 だから、どんな無茶な状態でも来てくれた。


 いくら今夜が上昇の月で、すでにパワーアップが始まっているとはいえ薬の効果を無くすことが出来るわけじゃない。

 永人が用意したという中和剤も、本当に気休めのようなものみたいだし。


 きっと、意識が朦朧とするのを無理矢理引き戻して中和剤を飲んだんだろう。

 そして、僅かに戻った力と気力で体を動かして……。

 そうしてがむしゃらになって来てくれた。


 それだけで、泣きたくなるほど嬉しくて胸が苦しい。



 日はもう沈んでいる。

 辺りは薄暗く、月のない今日は太陽の残滓(ざんし)が無くなればすぐに闇に包まれるだろう。


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