【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 化粧もはげ落ちてしまって、普段だったらボロボロの状態だろう。


 でも今は違う。

 上昇の月で力が上がり、なおかつ始祖の力が私に最上の美しさを与えているのが分かる。

 それは、何者をも魅了する美しさ。


 ……永人にまで戸惑われるのはちょっと困るけどね。


 私は周囲をぐるりと見回し、ひざまずいている四人に告げた。


「さあ、戻りましょうか。愚か者たちに知らしめてやらなければ」

 艶然と微笑み、永人に右手を差し出す。

 小首を傾げて「連れて行って?」とエスコートをうながせば、彼はガラス細工でも扱うかのように優しく私の手を取った。


「ああ……仰せのままに、俺の“唯一”」

 戸惑いはまだありそうだったけれど、優しく微笑んで今の私も受け入れてくれる。

 始祖の力をこの身に宿していても、多少口調が変わっていても、私であることに変わりはない。


 どんな私でも受け入れてくれる永人に、私はまた惚れ直してしまった。

 そうして永人にエスコートされながら歩を進めると、他の四人は無言で付き従う。

 私も、それが当然であるかのように前だけを見る。


 ううん、実際当然なんだ。

 始祖は、すべての吸血鬼を従える吸血鬼の王となりえる存在。

 そして、その命令は絶対。


 以前聞いた朔夜さんの言葉が蘇る。

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