【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 私は正面を向いて、始祖の言葉を待つ者達相手に口を開いた。


「……私を手中におさめようと、愚かなことを考える人達がいたようですね」

 淡々と、でも静かな怒りを込めて言葉を紡ぐ。


 私は普通に話しているつもりでも、きっと他の吸血鬼達には珠玉の旋律のように聞こえるんだろう。

 始祖の魔力とでも言うべきなのか。

 言葉一つ、仕草一つだけでも彼らには最上の美しさとなって届く。


 それこそが、始祖の力の一つでもある。

 その力、その美しさでもって全てを魅了し、従える。

 血脈に縛られているからだけではないから、服従してしまうんだ。

「“唯一”と引き離してまでそんなことをしようなんて……それがどれほど罪深いことなのか分かっているのかしら?」

 ビクリと、何人かの肩が恐ろしげに震える。

 彼らが月原家の者や協力者達だろう。


「お、恐れながら!」

 その中の一人が声を上げる。

 始祖に口答えするなんて、余程勇気のある者かただの馬鹿なのか……。


「かつての強さを欲する吸血鬼は多いのです。だからこそ、始祖様の力を持つあなた様の血を望むものは多い」

 六十代くらいだろうか。
 髪に白いものがちらほら見えている。

 挨拶のときには見なかった顔だ。
 ……まあ、全員の顔を覚えているわけじゃないけれど。

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