【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 でも、伊織が顔を青ざめさせているからきっと月原家の者なんだろう。

 会場には来ず、裏で色々やっていた側の人なんだと思う。


「あなた様には多くの者と交わり子を産んでいただかなくては――ぅぐっ!」

「ふざけたことを……!」

 どうやら、ただの馬鹿だったらしい。


 それを望むこと自体が愚かだと言ったばかりだというのに、まだそれを口にするなんて。

 あまりの腹立たしさに、集中して威圧してしまう。

 全ての吸血鬼を従える始祖の力は、目力だけで大の男一人を圧した。

 圧を掛けられた男が床に突っ伏すくらいになると、私は一度深呼吸をして怒りを鎮める。

 こういう輩にはいくら言葉で教え込もうとしても無駄だ。


 彼らは、本来の吸血鬼の在り方を忘れてしまっている。


 ……いつだったか嘉輪が教えてくれた、とあるハンターの言葉。

『吸血鬼は、愛のために生きる化け物』

 まさにその通りなのだと思う。


 始祖が愛する者との別れを嫌い、不死と引き換えにその愛を手に入れた。

 その結果吸血鬼という種族が誕生した。

 始まりからそうだったんだ。

 だから、吸血鬼が愛のために生きるのは血に刻まれた(さが)だと言える。


 それを忘れてしまった年寄りたちは、確かに老害と言えるだろう。

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