元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
痛いところをついてしまったのだろうか、彼は一旦口を噤むと私を睨みつけた。
「本命なら……」
「え? いるの?」
「――や、ここを卒業するまでは俺は自由でいたいんだ。それまでは好きにさせてもらうさ」
そうしてカラカラと笑いながら彼は早速他の女の子たちの方へ行ってしまった。
「いつか痛い目に遭っても知らないんだから」
「相変わらずね~」
「え?」
アンナがやれやれと頭を振っているのを見て、私は首を傾げる。
「ラウルもまさか、恋愛に全く興味なさそうだったレティが教師に一目惚れするなんて思わなかったんでしょうね」
「一目惚れっていうか」
「違うの?」
「……ううん。違わないけど」
見た瞬間にビビッと来たのだ。ある意味一目惚れであることは間違いない。
と、そこで教室の扉が開きユリウス先生が入ってきた。
背筋がピンと伸びた隙のない美しい歩き方はあの頃のクラウスを彷彿とさせて。
(やっぱり、好きだなぁ)
そう心の内で呟きながら教壇に向かう彼を目で追っていると、隣から少し呆れたような溜息が聞こえてきた。