元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「あ~それにしても嫌な気分ね! こういうときはさっさと寝るに限るわ。もう寝ましょうレティ!」
私はふふと笑いながらもう一度頷く。
アンナが怒ってくれたお蔭か、私自身はそれほど怒りの感情は湧いていなかった。
それよりも――。
(ここまで出来るってある意味凄い……)
その“熱”の強さに、驚きと底知れぬ恐ろしさを覚えていた。
その夜はベッドで目を閉じていてもなかなか寝付くことが出来なかった。
手紙のことも気になったけれど、アンナの言葉がずっと心に引っかかっていたのだ。
――私ね、先生は本当は前世の記憶があるんじゃないかって思ってるの。
――なんでかはわからないけど、レティには知られたくない何か理由があるんじゃないかって。
(もしアンナの言う通りだとしたら)
何度目かの寝返りを打って、私は目を開く。
(先生は……ううん、クラウスは、セラスティアの気持ちを受け入れたくないってこと……?)
つきりと小さく薔薇の痣が痛んだ気がして、私はぎゅっと目を瞑った。
(まだ、そうと決まったわけじゃない)
夜は考えがどんどん暗い方、悪い方へと向かってしまう。
私はそこで考えることを止め、眠ることに専念したのだった。