元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
寮生ではない、ということは自宅から通っているということ。夜間に私たちの部屋に手紙を差し入れることなど不可能だ。
(でも、なら一体誰が……)
重い足取りで中庭から校舎に続く渡り廊下へと戻りながらひとりごちているときだった。
ガチャンッ!
「え?」
すぐ背後で大きな音がして振り向けば、地面にキラキラと光るものが大量に散らばっていた。
(ガラス?)
その近くに落ちている真っ赤な薔薇の花と大きめのガラス片の形から見て、きっと花瓶だろう。――そう頭が理解して、ゆっくりと血の気が引いていく。
(まさか、私を狙って……?)
「何!? 今の音!」
「アンナ……」
校舎からアンナが焦った様子で出てきて、私の背後にあるガラス片を見つけ息を呑んだ。
「誰がこんな……!?」