元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
そんな先生を見下ろした次の瞬間、ぐるんと視界が回って身体が宙に浮く感覚がした。
(へ?)
「ミス・スペンサー、僕の部屋の扉を開けてもらっても? それと、すみませんがそれも拾っていただけると助かります」
「え? あ、はい!」
アンナが先生の部屋までパタパタと駆けていくのを見送って、先生が歩き出してから漸く私の頭はゆっくりと動き出す。
視線を上げればすぐそこに先生の端正な顔があって。
先生の腕が私の背中と膝裏に回っていて。
――そう、これは所謂『お姫様抱っこ』というものだ。
(~~~~っ!!?)
「――せっ、先生!? だ、大丈夫なので、おおおお下ろしてください!!」
心の中で意味不明な絶叫を上げながら、口からもひっくり返ったようなおかしな声が出てしまっていた。
全身が熱くて心臓が今にも飛び出てしまいそうだ。なのに。
「暴れないでください。……本当は痛むんでしょう」
「……っ!」
そう小さな声で囁かれて息を呑む。……図星だった。
傷は深くはなかったけれど、ずっとピリピリとした痛みは残っていて正直言うと少し歩き辛かったのだ。
「少しだけ辛抱してください」
「は、はい……」
こんな時だというのに、ほんの束の間先生の腕の中でその真剣な顔に見惚れてしまった私は悪くないと思う。