元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「わたくし昨日、早朝ランニングの帰りに見てしまったんですの。とある人物があなた方の部屋の前をうろついているところを」
「え!?」
「え!?」
私たちは同時に声を上げていた。
昨日は朝も例の手紙が挟まっていたのだ。
「そのときはあなた方に何か用かしらとそこまで気にしなかったのですけれど、先ほどレティシアさんが落ちてきた花瓶で怪我をしたと耳にしまして……それで、怪我の具合は平気なんですの?」
「あ、うん、ありがとう。この通りもう平気。そ、それで?」
その場で軽く足踏みして見せてから先を促すと、彼女はマイペースに続けた。
「ラウル様も何やら酷く気にされている様子ですし、それでふと昨日の朝のことを思い出したんですの。やはり考えるとあんな時間に妙ですし、念のためにお伝えしておこうかと」
「それで? それって誰だったの!?」
アンナがもどかしそうに訊くと、イザベラは再び周囲を見回してから口元に手を当て小声で言った。
「わたくしの見間違えでなければ、あれは――」
その名を聞いて、私たちは顔を見合わせた。