元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
この時間この場所にその人物を呼び出そうと提案したのもアンナだ。
人気のなくなるこの時間帯なら誰にも聞かれる心配はないし、私たちもこうして暗がりに身を潜められる。
逆に警戒されるのではと先生は眉をひそめたが、ユリウス先生からの呼び出しなら絶対に応じるはずだとアンナは断言した。
そしてそろそろ約束の時間。
ベンチ脇のうすぼんやりとした街灯に照らされた先生はいつもと変わらず落ち着いて見えるけれど……。
(やっぱり、まだ信じられない)
「ほら、来たわよ」
アンナの潜めた声にドキリとして視線を移す。
確かに学園の方からコツコツと足音を響かせ誰かがやってくる。
ユリウス先生もそれに気が付いたようでベンチからすっと立ち上がった。
「大事なお話って何かしら? ユリウス先生」
暗がりから浮かび上がったその人物を見て、私は目を見開いた。
「こんな時間に突然呼び出してすみません。ミレーナ先生」
そう、現れたのは誰もが憧れるあのミレーナ先生だった。
(あの手紙も、花瓶を落としたのも本当にミレーナ先生なの……?)
イザベラは確かにあれはミレーナ先生だったと言った。イザベラが嘘をつくとは思えない。
けれど、まだ何かの間違いであって欲しいと願っている自分がいた。