元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「あぁ、昨日は早くに目が覚めてしまったので運動も兼ねて寮内の見廻りをしていたんです。ふふ、それだけで私が犯人だと決めつけるんですか?」
(そんな……)
いくら早く起きたからと言って早朝に寮内の見廻りなんてどう考えてもおかしいのに、余裕の表情を見せるミレーナ先生に愕然とする。――でも。
「それだけではありません」
「え?」
(え?)
こちらもミレーナ先生と同時に声を上げそうになった。
ユリウス先生はポケットに手を差し入れ、取り出したそれをミレーナ先生の前で広げてみせた。
例の赤いインクで書かれた手紙だ。
「まぁ、酷い」
「こちらがその手紙ですが、筆跡がミレーナ先生にそっくりなんですよ」
私たちは思わず顔を見合わせた。勿論そんなのは初耳だ。
でもミレーナ先生は困ったように苦笑して肩を竦めた。
「筆跡って、そんな乱雑な字と比べられてもねぇ」
「先日、テストの採点確認のときに気付いたのですが、ミレーナ先生はシャンドリー地方の出身ではないですか?」
「え……?」
そこで初めてミレーナ先生の顔から笑みが消えた。
シャンドリー地方とは、このベルヴェント王国の南端に位置するのどかな田園地帯の広がる地域だ。