元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

 広場を楽しそうに見つめるリュシアン様を見て改めて思う。
 例の誘拐事件で彼に誘われた女性たちがふらりとついて行ってしまった気持ちもわからないではない。
 人間離れした美しさ、というのだろうか。
 そして彼は王子様という肩書きも持ち合わせている。
 こんな引く手あまただろう彼が、なぜ私などを気に入ってくれたのか本当に不思議でならない。
 それは、セラスティアも思っていたことだ。
 
(やっぱり聖女の力に惹かれたのかな……)

 と、その赤い瞳がこちらを見てぎくりとする。

「なんだい? じっと見つめて」
「い、いえ」
「あの! 失礼を承知の上でお訊きしたいのですが」

 そう声を上げたのは私の隣に座るアンナだ。

「なにかな?」
「なんで、今日私たちが街へ出るってわかったんですか?」

(!?)

 強気な目を向け続けた彼女にひやりとする。
 確かに気にはなっていたけれど、それは暗に「私たちの会話を盗み聞きしていたんですか」と訊いているようなものだ。
 しかしリュシアン様はなんでもないことのようにさらりと答えた。
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