元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「そんなの簡単さ。今週、姫は誕生日を控えている。そしてこんなに天気の良い休日だ。街へ出ると考えるのが自然だろう? それに、昨日姫は元気がなかったからね、友人である君が気晴らしにと誘ったんじゃないのかい?」
「!」
アンナが驚いたように目を丸くして口ごもる。
……元気がなかったのはあなたにも原因があるのだけれど、とは言えるわけもなく。
「じゃ、じゃあ、もうひとつ……」
アンナが続けてそう言いかけたときだった。
「うわぁ~~ん」
すぐ近くで子供の泣き声が上がった。
視線を広場へと移せば、5歳くらいの男の子が転んでしまったのか膝を押さえて泣きじゃくっていた。
近くに親らしき姿はなく、私は思わず立ち上がり駆け寄っていた。
「ぼく、大丈夫?」
「いたい~~」
その膝には痛々しい擦り傷ができ血が滲んでいた。
瞬間あの力を使うことを考えたけれど、こんな人の多い往来で使えるわけがない。それに彼の泣き声に人々の視線はこちらに集中している。
私はポケットからハンカチを取り出してその子に差し出した。
「これで血を」
でも男の子はひっくひっくとしゃくり上げながらぶんぶん首を振った。
どうしたものかと困っていると。
「男がそんなに泣くものではない」
「リュシアン様」