元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
急に現れた彼は溜息一つ吐いて私の傍らにしゃがみ込んだ。
「女性の前で格好悪いと思わないか?」
「そんな言い方……」
可哀想だと言いかけるが、男の子はぐっと下唇を噛むとごしごしと目を擦ってからリュシアン様を睨むように見つめた。
リュシアン様は満足げに頷き微笑んだ。
「うん、良い子だ」
「トマス! ここにいたの!?」
そのとき、30代くらいの女性が息せき切ってこちらに駆けてきた。どうやらこの子の母親のようでほっとする。
「ママぁ~~!」
その子はママの姿を見つけると再び顔をくしゃりと歪め泣きながら彼女に飛びついた。
「もう、勝手にいなくならないでってあれほど言ったのに。ありがとうございました。ご迷惑をお掛けしてしまったみたいで」
女性は私たちに向かって申し訳なさそうに頭を下げると、その子を抱き上げ優しく話しかけながら元来た方へと戻っていった。
「見つかって良かったな」
そう言ってリュシアン様は立ち上がった。
「はい」
(……というか、リュシアン様もユリウス先生に捕まって痛い痛いと格好悪く叫んでましたよね?)
心の中でこっそりツッコミを入れながら私も立ち上がる。
「しかし懐かしいな」
「え?」
リュシアン様は今の親子を見送りながら言った。
「君は憶えていないかもしれないが、私も……ルシアンもあのくらいの歳の頃に姫に助けてもらったんだ」
「……えっ!?」
思わず一拍遅れて大きな声が出てしまった。