元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
そんな私の反応を見てリュシアン様はふっと笑った。
「やはり憶えていないか」
その笑みは少し寂しそうに見えて、ちくりと胸が痛んだ。
「す、すみません」
「まぁ、仕方がない。私もあのとき名乗らなかったからな」
そうして彼は懐かしそうに話し始めた。
「各国の要人たちが集うパーティーでのことだ。流石にどんな内容だったかまでは憶えていないが、とにかくつまらなかった私はこっそりとその場を抜け出した。だがそこで迷子になったあげく転んで怪我をしてしまってね、そこに現れたのがセラスティア姫、君だったんだ」
リュシアン様が眩しそうに目を細め私を見つめる。
「姫は聖女の奇跡の力で私のその怪我を治してくれた。話には聞いていたが、驚いたなんてものではなかった。だがその後私はすぐに護衛に見つかり連れ戻されてしまってね、満足に礼を言うことも出来なかった」
そして彼はあの異質な笑みではない、初めて見る穏やかな笑顔で言った。
「あのときは本当にありがとう、姫」
私はふるふると首を振る。
……こちらは全く憶えていないのにお礼を言われて、なんだか酷く申し訳なかった。
「そのときから、私はずっと姫に夢中でね」
「……っ」
「だから、そんな姫が18歳で理不尽にも殺されると知って、黙ってはいられなかったんだ」
今の今まで穏やかだった顔が、あの朝のような怒りと恨みのこもったどす黒いものに豹変していて、ぞくりと身体が震えた。