元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第二十六話
「私は姫を殺したあの騎士を絶対に許さない」
「クラウスは悪くありません!」
思わず私は声を上げていた。言わずにはいられなかった。
彼はセラスティアの従者である前に、国王に忠誠を誓う騎士だった。
だから命令には逆らえなかったのだ。
「それにセラスティアも」
「そう、クラウスだ。あの騎士の名。……あいつは私に嘘を吐いた」
「え?」
リュシアン様の赤い瞳が怒りに燃えているように見えた。
「あいつは私に言ったんだ。『姫は騎士の名にかけて私が必ず守ります。だから安心してください』とね」
――え?
「なのに、あいつは……」
そのとき彼の両手が小刻みに震えていることに気付く。
「あいつが、姫を……っ」
「リュシアン様」
凛と響いたその声にリュシアン様は我に返ったように顔を上げた。その視線の先にいるマルセルさんが冷静な顔で続ける。
「コーヒーが冷めてしまいますよ」
「……そう、だな」