元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
少しの緊張を覚えながら小声で言うと、先生は短く息を吐いた。
「僕なら大丈夫です。彼のことは話に聞いていますが、今回はお目付け役もついているようですし心配ありません」
お目付け役。マルセルさんのことを言っているのだろう。
「でも、気を付けてください。リュシアン様はまだ先生のこと……」
「ありがとうございます。……ミス・クローチェ、貴女も」
「え?」
私を見つめる先生の目が優しく細められた気がして、どきりと胸が鳴る。
「彼が貴女に危害を加えるようなことはないと思いますが、例の件もありますし油断せず十分に気を付けてください」
「は、はい」
顔が赤くなっているのを自覚しながら返事をする。――と。
(あれ?)
そのとき、先生の顔色があまり良くないことに気が付いた。
よく見れば眼鏡の向こうの目の下にははっきりと“くま”が出来ていて。
「先生、寝不足ですか?」
「え?」
すると先生は目を大きくして、それを隠すように眉間を押さえた。
「……少し仕事が溜まっていまして。問題ありません。もういいですか?」
「あ、はい! ありがとうございました」
慌てて頭を下げてお礼を言うと、先生は静かに扉を閉めた。