元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

第二十八話


「まだリュシアン様たちは来ていないようね」
「うん」

 少しほっとしながら私たちはまだ人のまばらな教室へと入り、席に着いた。
 と、誰かが私たちの前に立つのがわかって顔を上げる。

「あ、ラウル。おはよう」

 でもなぜかラウルは不機嫌そうな顔をしていて。

「お前ら、昨日あの王子と街に出かけてただろう」
「!?」

 驚いて私はアンナと顔を見合わせた。
 確かに誰に見られていてもおかしくはないけれど。

「仕方ないでしょ。街を案内してくれって頼まれて断れなかったのよ」

 アンナがそう答えるとラウルは脱力するように大きな溜息をついた。

「だからってなぁ、あいつはついこの間レティを誘拐しようとしたんだぜ」

 声を潜めてラウルが言う。
 ラウルからしてみればリュシアン様は自分をナイフで刺した油断ならない相手で、そんな相手と私たちが一緒にいて気分が良いわけがない。
 ごめんと謝ろうとして、アンナの方が早かった。
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