元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第二十九話
「なんだ。楽しみにしていたのにな」
「!」
背後から落胆の溜め息が聞こえ振り返るとリュシアン様とマルセルさんが廊下に立っていた。
リュシアン様が薄い笑みを浮かべ小首を傾げる。
「ひょっとして逃げたのかな?」
「先生はそんなこと……っ」
思わず、そう言い返してしまった。
「し、失礼しました……」
「いや」
リュシアン様は気を悪くした様子なく首を振って続けた。
「そうなると、やはり姫の誕生日に向けて何か企んでいるのかもしれないね」
「……」
しくしくと痛む胃のあたりを押さえていると、彼は言った。
「大丈夫だよ。姫は私が守るからね」
教室に戻るとアンナにお手洗いに付き合ってと言われ、私は再び廊下に出た。すると。
「このまま医務室に行きましょう、レティ。酷い顔色よ」
「でも……」
「自習なんだし、少しでも横になった方がいいわ。……リュシアン様にはうまく言っておくから」
「ありがとう、アンナ」