元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
そうして私はアンナに付き添ってもらって医務室を訪れた。
ついこの間も花瓶の件でお世話になったスクールナースのソニア先生――40代ほどの柔和な雰囲気の女性だ――が出してくれた軽い胃薬を飲んで、私は3つ並んだベッドのうち窓側のベッドに横になった。
他に生徒はいないみたいで少しほっとする。
「じゃあ私は教室に戻るわね。また休み時間に来るわ」
私がもう一度お礼を言うと、アンナは手を振って医務室を出て行った。
「ここにいるから、何かあったら声をかけてね」
「はい。ありがとうございます」
ソニア先生は優しく微笑んでベッドの周りにカーテンを引いてくれた。
小さく息を吐いて、私は目を閉じる。
(ユリウス先生、何があったんだろう……)
勿論こんなことは初めてで、急用というから余程のことがあったのだろう。
つい数時間前に見た酷く疲れた様子のユリウス先生を思い出す。
――姫の誕生日に向けて何か企んでいるのかもしれないね。
同時にリュシアン様の先ほどの台詞が蘇り私は小さく首を振った。
(そんなことあるわけがない)
あの優しいユリウス先生が、私に害をなすようなことを考えるわけがないのだ。
……それより。
(2、3日か……おめでとうの言葉はやっぱり聞けないのかな)
じわりと涙が出そうになって私は真っ白なシーツを頭まで被った。