元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「リュシアン様はそのことを知っていたんですね」
「ああ。……あの日、私は姫を我が国に迎える予定だったんだ」
「!」

 やっぱりと思った。
 ――セラスティアの知らぬ間にふたりの間で交わされていた“約束”。
 クラウスの用意したセラスティアの逃亡先は、お隣ルシアン様の国だったのではないかと、そう考えたのだ。

「あの騎士がそう約束したんだ。必ず姫を逃がし私の元に連れていくから待っていて欲しいとね。私はその言葉を信じ約束の場所でずっと、ずっと待っていた。なのに結局、姫も、あの騎士も、現れることはなかった……」

 その顔が憎悪と悲しみに歪む。

「私が姫の死を知ったのは、その翌日だよ」
「それじゃあ、」
「ああ、姫の本当の最期は私も知らない。その亡骸を見ることも叶わなかった。ただ、滞りなく聖女セラスティア姫は王国のために天に召されたと聞かされて、私は絶望した」

 俯いたリュシアン様の声がはっきりと震えていた。

(やっぱり、運命は変えられなかったの……?)

 少しだけ、もしかしたらと期待してしまっただけに、なんだか全身の力が抜けた気がした。
< 179 / 260 >

この作品をシェア

pagetop