元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「でも、クラウスさんは本気で姫を逃がそうとしていたんでしょう?」
アンナが言いにくそうに訊いて、私は頷く。
あのときのクラウスの言葉や表情に嘘はなかった。彼は本気で姫を逃がそうとしていたのだ。それは間違いない。
「じゃあ、逃げようとしたけど途中で誰かに見つかってしまったとかで」
「それでも! どんな理由があったにせよ、あいつが私との約束を破り姫を殺したことに変わりはない!」
リュシアン様がそう声を荒げて、アンナは口を噤んだ。
「……あいつは、クラウスはその後どうなったんだ」
そう低く声を上げたのはラウルだ。
(あ……)
――そうだ。クラウスはその後どうしたのだろう。
セラスティアが死に、姫の従者ではなくなった彼のその後は――。
「あいつは自害したらしい」
短く告げられた言葉に、私は大きく目を見開く。
「姫の亡骸のすぐ傍で、あいつは姫と同じように自らの剣で胸を貫き死んでいたらしい。私がこの手で殺してやりたかったのに、どこまでも卑怯な男だ」
「――レティ!?」
アンナの叫び声が聞こえた気がしたけれど、私の意識はそこで途切れ深い闇の中へと沈んでいった。