元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

第三十二話


「まったく、タイミングが悪いったらないわ!」

 寮の自室に入った途端、アンナが憤慨したように言った。

「焦る気持ちはわかるけど、何も今言わなくたっていいのに」
「……」
「レティ、大丈夫?」

 心配そうに訊かれて、ベッドに腰を下ろした私は小さく苦笑する。

「なんか、びっくりしちゃって……」

 ラウルは返事は急がないと言った。

『俺は前世とは何の関係もねぇけど、でも俺はレティの許婚だから』

 そして、考えて欲しいと彼は続けた。
 その間リュシアン様は何も言わず、ただ薄い笑みを浮かべそんな私たちを見つめていた。

「ラウル、許婚のこと真剣に考えてくれてたんだなって思って」

 彼は昔から女の子が好きで、これまでに色んな女の子と付き合っているのを見てきたから、親同士が決めた『許婚』のことなんて全く気にしていないのだと思っていた。
 将来はきっとこのまま誰か良い人を見つけて、私との関係なんてさっさと解消してその人と結婚するのだろうと思い込んでいた。
 だから私はラウルと結婚する未来なんて想像したこともなかった。ただ漠然と、また違う誰か、親の決めた人と結婚するのだろうと考えていた。
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