元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
 それにイザベラのこともある。
 私がラウルの気持ちを受け入れるということは、同時にあんなに彼を強く想っている彼女を悲しませるということで……。

(やっぱり、今はまだ考えられない)

 目を瞑って何度目かの寝返りを打つ。
 すると瞼の裏に浮かんだのは先生だった。

(ユリウス先生……)

 先生は今どこにいるのだろう。
 いつ学園に帰ってくるのだろう。
 体調はもう平気なのだろうか。最後に見た先生はとても疲れている様子だったから心配だった。

(先生に、会いたい……)

 もう前世のことは思い出さなくていい。
 ……本当は憶えていて、私に何かを隠しているのだとしても。
 それでもいい。
 あの声で、いつものように「ミス・クローチェ」と呼んで欲しかった。



< 189 / 260 >

この作品をシェア

pagetop